我々のグループでは「優れた機能をもつものは美しい構造を有している。」という考えのもと、新規機能性分子の開発を目指して研究を行っている。
   比較的容易に合成可能な有機小分子をブロック分子として、それらを共有結合、配位結合、水素結合、その他の弱い相互作用により連結することで様々な構造を有する分子を構築することが可能である。これらの分子は、その構造に応じて様々な機能を有することができる。例えば環状構造、カプセル状構造や球状構造を有する分子を構築することにより、内部空間に分子を取り込むことができ、分子認識分子や分子センサーへの応用が期待される。また多孔性を有する分子の構築により、ガス分子や有機小分子の吸着、貯蔵が可能となる。
   本研究室では、リン原子を含む有機小分子をブロック分子として設計・合成し、それらを共有結合や配位結合により連結することで新たな分子群を創製している。そして精密な構造解析とともに機能性開拓を目指して物性評価を行っている。
   現在進行中のプロジェクトおよび共同研究テーマを以下に示す。
   研究テーマ:希土類配位高分子

多孔性配位高分子は、その比表面積の広さを生かした空孔への分子吸着を利用した様々な応用が期待される材料として注目を集めている。また希土類錯体は、特有な磁性や発光性などが注目される物質群である。これらを組み合わせた希土類多孔性配位高分子は、これらの特徴を併せ持つ材料開発が期待される。我々は、トリフェニルホスフィンオキシド系配位子に注目し、希土類イオンとの錯形成において多孔性配位高分子の作製に成功した。特にユーロピウム錯体においては、特有の赤色発光が見られた。また水分子がゲストとして加えられると消光現象が見られることが明らかとなり、放射光を用いた詳細な構造解析により、ユーロピウムイオン周りの配位空間での水分子の挙動が関与しているであろうと思われる。

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K. Katagiri et. al. New. J. Chem. 2017, 41, 8305-8311

現在ユーロピウム以外の希土類錯体についても多孔性配位高分子の創成および発光特性制御、およびその他のゲスト分子およびアンテナとして働く分子の添加による発光色制御について研究を行っている。
   研究テーマ:トリアリールホスフィンオキシド結晶の発光特性

アントラセンやピレンなどの発光特性基をもつ有機化合物は、結晶構造中の分子配列により特徴的な発光特性を示すことが知られている。またアントラセンは光二量化反応によるスイッチ機能を組み込むことができる興味深い官能基である。我々は、アントラセンをトリアリールホスフィンオキシドに組み込み、その結晶構造と発光現象を明らかにすることに成功した。窒素ガス雰囲気下で光照射すると一般的な光二量化反応による発光低下現象が観測されるが、酸素雰囲気下で光照射した場合には、アントラセンがアントラキノンへと変換されながらホスフィンオキシドから脱離することが見出された。

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K. Katagiri et. al. Tetrahedron Lett. 2019, 60, 2026-2029

現在アントラセン以外の発光特性基を有するトリアリールホスフィンオキシドの合成および結晶構造について研究を行っている。
   共同研究テーマ(東邦大学薬学部 東屋功教授

(1)環状分子の空孔部分を開閉することが可能であれば、分子認識による有機分子のトラップ、リリースを制御することが可能となり、ドラッグデリバリーシステム(DDS)などの応用面で期待できる。我々は、第二級アミドがtrans型を第三級アミドがcis型を優先することを利用して、環状分子の開閉を可能にする分子の創製を目指している。6つの第三級アミドを含む大環状化合物はねじれた構造を有しており、空孔部分が閉じた状態になっている。このうち3つのアミドを第二級アミドに変換することにより、空孔部分が開いた構造を有する3つの第二級アミドと3つの第三級アミドが交互に存在する大環状化合物が得られることを単結晶X線構造解析を利用して明らかにした。

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K. Katagiri et. al. J. Mol. Struct. 2015, 1082, 23-28.

(2)メタ位で連結された環状芳香族アミド(Calixaramide)は椀型のキャビティーを有しており、アミド結合の芳香によりキラリティーをもつことが知られている。単純な構造をもつCalixaramideは溶液中で速やかにラセミ化してしまう。しかしながら分子内で水素結合を形成することができる置換基を導入することにより、ラセミ化速度を低下させることが可能である。ここではホスフィン酸基を導入することにより、分子内水素結合により巾着を縛ったような構造のCalixaramideが合成された。このCalixaramideはジメチルスルホキシド中ではラセミ化速度が速くなることがNMR測定および量子化学計算より明らかとなった。さらに水分子存在下、不斉結晶化が起こることを見出している。

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K. Katagiri et. al. Org. Lett. 2015, 17, 3650-3653.