当研究室では、環境試料・食品試料・貴金属試料・法科学的試料など様々な物質に含まれる成分を分離したり、分析する新しい手法の開発を目指しています。具体的には、これらの試料に含まれる成分をICP発光分光分析・吸光光度分析・蛍光分析・キャピラリー電気泳動法などを用いて分析するとともに、溶媒抽出平衡の理論を背景としたイオン液体共抽出法や、温度感応性高分子による選択的分離材料の創製に関する研究を推進しています。また、食生活の向上に資する食品分析に関する研究も推進しています。このような研究により、
地球環境の保全に貢献するとともに、わたしたちの身近な生活環境にも貢献する分離分析化学の発展を目指しています。
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イオン液体を利用した新たな抽出分離法の確立
イオン液体は、イオン化合物でありながら常温常圧で液体であり、(1)電気を流す、(2)ほとんど蒸発しない、(3)耐熱性に優れる・・・など、従来の水や有機溶媒と異なる『第3の液体』として今世紀になり急速に注目を集めている物質です。イオン液体は有機イオンを含むものが多く化学合成により自由に分子設計することができるほか、物質を溶かす能力も比較的コントロールすることが可能です。当研究室では、従来の溶媒抽出法で使用していた有機溶媒にかわる新たな抽出媒体としてイオン液体を使用する方法を検討しています。また、イオン液体を構成する陽イオンと陰イオンを、別々の塩の水溶液としてとして準備し、これらの溶液を混ぜる際に抽出したい標的物質を入れておくと、イオン液体生成と同時に標的物質も抽出される『イオン液体共抽出』が可能であることを見出しました。「水溶液を混ぜるだけで抽出相の形成と抽出が同時に達成できる方法」は、標的物質を選択的かつ迅速・簡便に抽出分離する方法として、その基盤技術および基礎理論の構築を進めています。
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貴金属イオン回収システムの構築
工業排水中に含まれている貴金属の回収は省資源の観点から極めて重要です。当研究室では、抽出試薬として貴金属イオンに高い選択性を持つ様々なチオエーテル誘導体を合成し、貴金属イオンを選択的に抽出する化学技術開発を行っています。抽出法としては、従来の溶媒抽出法に基礎をおきつつ、環境調和型抽出技術として、水に対する溶解性が温度により劇的に変化する温度感応性高分子に抽出剤を連結した『温度制御回収システム』の基盤技術を構築しています。また、従来溶媒抽出では抽出剤をクロロホルムなどの有機溶媒に溶かして抽出していましたが、これに替わる抽出媒体として、揮発性がほとんどなく有害性が低いとされるイオン液体に抽出剤を連結した『機能性イオン液体』による貴金属イオンの回収システムの構築も行っています。
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キャピラリー電気泳動法による省試料分析
環境試料(温泉水など)や法科学的試料(インク、化粧品など)、食品試料中に含まれる化学物質を測定する方法は様々ありますが、測定には数十~数百ミリリットル以上の試料溶液を必要とし、特にわずかな量の希少試料の分析には不向きです。当研究室では、サブマイクロリットルレベル(1ミリリットル未満)で迅速に分析する手法として、キャピラリー電気泳動法を用いた省試料分析法をの開発を行っています。
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食の安全・安心につながる化学分析の実践および新分析法の開拓
食品や食材の成分を化学的に分析する手法の探索を行っています。例えば、わたしたちを身体をつくりだしている細胞の“老化”の原因となる活性酸素を失活させる物質群を「抗酸化物質」と呼びますが、当研究室では食品・食材中に含まれる抗酸化物質の含有量を化学的に分析し数値化しています。また、甘味、苦味、酸味などの“味”に関わる成分を分析することにより、『味を科学的に調べる』試みも行っています。さらに、このような分析をより簡単にできる手法の探索も進めています。